静穏総長も、時には激しく愛したい
コンコン
「澪音です、ただいま帰りました」
「入れ」
「……失礼します」
「おかえり」も「よく帰ったな」も。
そんな言葉は、昔から存在しない。お父さんにとって私は、きっと――
ガチャ
「遅かったな」
「遅れてすみませんでした。それで……話とは?」
広く大きな机で、何やら万年筆を走らせているお父さん。
名を、若桜 禅周(わかさ ぜんしゅう)。
大企業・若桜グループの社長。そして日本国内で「総資産額三本の指に入る」という、いわゆるお金持ちだ。
「ウチに跡継ぎがいない事は知ってるな?」
「……娘の私、一人っ子ですからね」
どうやら、私を女社長に育てる気はないらしい。
残念――というよりは、私もお父さんが何を作って有名になったのか知らないし、そもそも家にいない人だったからね。
お父さんの会社はどんなところ?なんて。質問する機会もなかった、というわけだ。