静穏総長も、時には激しく愛したい
「こんなん振り回すしか能がない連中に捕まるなんて。運が悪いね、あんたも」
不良をやっつけた男の人は、息の一つも上がってない。髪の一本さえも、立っていない。のほほんと歩いている通行人と、同じ雰囲気だ。
たった今、ナイフを持った二人組とケンカをしたっていうのに。
「あなた……強すぎませんか?」
「……あんたこそ。呑気に俺にしがみついてるけど、メンタルどうなってんの」
「へ?」
「普通ビビらない? 俺の手を見なって。不良から奪ったナイフを握ってるんだけど?」
「あ」
確かに。あのナイフで、私はさっき襲われそうになった。あのナイフは、恐怖そのもの。
だけど……
男の人が持っている分には、不思議と「怖い」とは思わなくて。
「怖く、ないです」