静穏総長も、時には激しく愛したい

「こんなん振り回すしか能がない連中に捕まるなんて。運が悪いね、あんたも」



不良をやっつけた男の人は、息の一つも上がってない。髪の一本さえも、立っていない。のほほんと歩いている通行人と、同じ雰囲気だ。

たった今、ナイフを持った二人組とケンカをしたっていうのに。



「あなた……強すぎませんか?」

「……あんたこそ。呑気に俺にしがみついてるけど、メンタルどうなってんの」

「へ?」

「普通ビビらない? 俺の手を見なって。不良から奪ったナイフを握ってるんだけど?」

「あ」



確かに。あのナイフで、私はさっき襲われそうになった。あのナイフは、恐怖そのもの。

だけど……

男の人が持っている分には、不思議と「怖い」とは思わなくて。



「怖く、ないです」
< 8 / 315 >

この作品をシェア

pagetop