静穏総長も、時には激しく愛したい

だけど「早く澄を連れて帰らないと!」と焦っていたから、聞き返すことが出来ない。


結局。

澄を引きずりながら、逃げるようにその場を後にした。



「もう澄! あんな言い方、失礼でしょ?」

「……私は悪くありません。まるで”つまみ食い”するような態度が、気に食わなかっただけです」

「つまみ食いって……。はっ!
私が飴を食べようとしてたって、どうして分かったの!?」

「……」



すると澄は顔を歪めて「むしろ食べようとしてたんですか?」と、ドン引きした目で私を見た。

え?
「つまみ食い」って、私のことじゃないの?



「澄は、いったい誰のことを言ってるの?」

「……はぁ。とりあえず、お嬢様。帰ったら写真を見ますよ」

「え? う、うん」

「見たら分かりますよ。“つまみ食い”の意味も。さっきの人が誰かということも」

「?」



それって――と思っていると、澄が「はぁ」と、深いため息をつく。



「嫌なもんですね。お見合いって」

「澄……」



私と同じくらい……むしろ、私よりも落ち込んだ声で、澄がポツリと呟いた。
< 88 / 315 >

この作品をシェア

pagetop