静穏総長も、時には激しく愛したい

「……っ」



悔しいなぁ。どうして私は、一般家庭に生まれなかったんだろう。

昔からお父さんの顔色ばかりを見て育って来た。唯一の味方は、お母さんではなく執事である澄だけ。

お母さんだって、お父さんの言いなり。今だって、お父さんの命令で、海外に一人残って仕事をしている。



「お母さん、私がお見合いするって言ったら、ビックリするだろうな。でも……それだけか。絶対に、私の肩を持ってはくれないだろうし」



親に甘えることも、泣きつくことも、昔からなかった。

昔から私は一人っ子で、一人ぼっちだ。



「そんな私が結婚するって事は……もう一人じゃないって事だよね?」



結婚して、家庭を持って、子供を産み、母親になる――言葉にすると、それらはとても幸せなはずなのに、



「どうして、こんなに胸が苦しいんだろう……っ」



頭の中で無理やり消した奏さんの存在が、イヤでも浮き出てくる。

私の内側から激しくノックし、奏さんへの好きの気持ちが、あふれかえりそうになる。

今日だって、あんな事があったのに……
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