メガネむすめ
九月十二日

 早瀬君の絵が完成した。
 見せてもらうと、写真のようだった。正確には写真のような画風と言った方が正しいのだろうか。美術というものがよく分からないが、少なくとも早瀬君は絵を描くのが上手だと分かった。その絵を暫く見つめていると少し懐かしい匂いがした。何だろうと思い、早瀬君に聞いたところその絵はクレヨンで描かれたもということが判明した。その後実際にクレヨンで林檎や花を描写してくれた。
 私は早瀬君の絵に見入っていたのだが、「何か、悩み事が出来たの?」と聞かれた時は焦った。必死に隠したが、その後早瀬君が「実は俺、悩みが出来ちゃったんだよね、良かったら聞いてくれるかな?」と言って、私と別れるのが想像するだけでも辛いこと。ずっとこの街にいたいこと。そんなことを話してくれた。
 どうやら早瀬君は私と似たようなことを考えていたらしい。
 私は早瀬君が好きだし早瀬君も私を好きだと言ってくれる、これから沢山楽しい思い出を作ろうと決めた、後悔はしていない。だから、私は私自身に祈る。
 願わくば、勇気をください。
 早瀬君と一緒にいる勇気をください。
 二十日後に別れると分かっても、それでも一緒にいることの出来る、勇気をください。
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