メガネむすめ
九月十七日

 身近に、凄い人がいても中々気付かないというのは良くあることなのだろうか。今日、私は里美が案外大物かもしれないと思えてきた。
 話の発端は、昨日のことを里美に話した。それだけだった。何となく気が楽になると思ったのかもしれないし、里美なら何らかのアドバイスをくれるのではないだろうかと思っていたのだろう。
 だが実際の所は里美は私と早瀬君を放課後に呼び出し、「二人とも馬鹿?」と、単刀直入に私達に馬鹿発言をした。その後、今まで里美とは全く違う、静かに強い口調で「後悔したければ今のままでも良いと思う。だけど後悔したく無いんなら今の内にキスでも何でもしちゃいな、中学生じゃないんだし」と言われて、何も言えなかった。私と早瀬が何も言えずにいると、里美は言葉を続けた、「青春は今しか無いんだよ、それに加えて早瀬は十月になれば引越しする。「あの時仲良くしとけば良かったな」で片付けられる?それで済むの?嫌でしょ?」里美の声は少しずつトーンが下がって行き、最後に消え入りそうな声で「私も、嫌だよ」そう呟いて、大粒の涙を流していた。私は反射的に里美に抱きついていた。理由は、分からない。里美が何処かへ行ってしまいそうな気もした。謝りたかった。救われたという思い……恐らくそれが強かったのだろう。
 抱きついた後、私は泣いてしまった。声を上げて泣いてしまった。泣いた理由は、これも今となっては要素があまりに多過ぎる為、分からない。ただ一つだけハッキリしていることは、里美が頭を撫でてくれた時、凄く安心出来たということだろう。
 このようなことがあり、早瀬君との間にあった壁が消えた気がした。むしろ以前より近くなった気がする。里美には感謝している。私は、親友の里美の大きさを知った。人を思うことも知った。そして、今までのことを思い出した。
 夏休みに思いを馳せていた六月から、夏の暑さを鬱陶しく思う七月に夏を惜しむ八月、そして文化祭の準備に勤しむ九月。
 日記帳も残すところ十日前後。早瀬君と別れるのも十日前後。
 私たちに出来ることは限られている。だからこそ、今を、早瀬君と里美と私が一緒にいる時間を大切に生きて行こう。
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