メガネむすめ
九月二十九日

 早瀬君は、明日の二時頃にこの街を発つそうだ。私はそれを聞いても、まるで実感が沸かなかった。明日から早瀬君がいないことなんて、想像出来ない。
 このまま側にいたい。けど、それは実現することが出来ないこと。理解はしているつもりだった。私は理解しているつもりで、その現実を受け止めていなかったことに今更気付いた。
 後悔をしているのかもしれない。
 そんな曖昧なことだらけで不安定な心情だが、一つだけ確実なことがある。あの時、早瀬君と出会って良かった。もし出会わなければ今までの幸せな思いを感じることも無かっただろう。だから、だからこそ。
 私は別れる時に、「じゃあ、また明日」そう言っていた。早瀬君はその意味を理解してくれたのだろうか。そんなことも分からないまま、私はナカムラに問いかけている。
「私はどうするべきなのだろうか」
 答えが返ってくるはずも無いことは分かっていたが、返事が無いことに少しだけ寂しさを感じてしまった。……明日しかないのだ。私には明日しかないのだが、どうすれば良いのだろう。
 未だに、答えは出ていない。
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