メガネむすめ
九月三十日

 九月の終わり、そして早瀬君がこの街を出発する日。私は、日常の中にいた。ただ授業を受け、ノートに文字を書き取り先生の話を聞く。今まで幾度となくこなしている。
 何気のない日常が何故、何故こんなにも日常が辛いのだろうか。心が痛むでもない、悲しむでもない、何も感じないのだ。何も感じ無い。
 そんな折、里美が「それで良いの?」と問いかけてきた。私は立ち上がり、教卓の前に立ち、先生に向かい、「先生!風邪気味なので早退します!」と叫んだ後、先生の了承を得ずに、私は走り出した。自分でも信じられない速度で階段を駆け下り、上履きのまま外に駆け出している途中、三階から里美が「これ持ってけ!」と言って、財布を投げて渡してくれた。私は「ありがとう!」と言って駆け出した後、クラス中の人が声援を送ってくれて、それを背に受けながら走ったが、走り出して数分もしない内に足が震えだした。私は普段の運動不足を呪い、同時に里美に感謝しながらタクシーに乗りこんだ。そして早瀬君の家に着いたのは、三時になっていた。私は遅かったのだ。だからこんな結果になってしまったけど後悔は無い行動を起こして後悔しているのだから。そう自分に言い聞かせている時、電子音が鳴り響いた。
 私は受話器を手に取り、「もしもし」と喋りかけたが何も返答が来ない。無言電話だと理解し、私は受話器を元の場所に置こうとした時。「遅いよ、結構待った」そう、背後から声がした。私が何も言えずにいると「嘘、俺が勝手に待ってただけだから」と答えてくれた。
 その後は、私が早瀬君に抱き、思わず泣いてしまった。
 私の情緒が安定するのにかなりの時間を要してしまった。そして、何をするワケでも無く、外に出て空を眺めた。空を眺めながら、ただ、話をした。
 それだけで時間は過ぎて行き、早瀬君が出発する時刻になってしまった。それからは、駅に向かう途中に、引越し先の住所と電話番号をくれて「たまには、連絡をしてくれよ」と言ってくれた。その後は、駅のホームで普通に別れ、電車が見えなくなるまで手を振り続けた。……その後は、学校に行って謝って、里美に借りを作ってしまったことに後悔して、また日常に戻った。けどこれで良いのだろう。
 明後日に早瀬君の家へ電話をかけよう。そしていつか会おう。その一筋の希望を胸に、この日記帳を締めることにする。
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