私の「運命の人」
高校三年生になったばかりの乃愛は、自身の左手を見る。そこには婚約者がいるという証の婚約指輪があった。婚約者・配偶者がいる証である指輪は嵌める義務があるためだ。

大きなダイヤモンドの入った指輪は、友達が持っている指輪よりもずっと豪華で、羨ましがられる。

この指輪を見るたびに、乃愛の胸は苦しくなる。国によって決められた婚約者に対し、乃愛は何の感情も抱いていないからだ。

「タイムスリップできたらいいのに……」

誰にも聞こえないよう、ポツリと乃愛は呟く。もしもあの人と自由な恋が当たり前の時代にタイムスリップすることができたのなら、迷うことなくこの想いを伝えるのにーーー。そんな叶うことのないことを乃愛は願っている。

春風が吹き、葉桜になりかけている桜の木から花びらが落ちていった。



ホームルームが終わり、乃愛が通学用の鞄を持つと、友達二人が「乃愛ちゃん!」と話しかけてくる。同じクラス・同じ部活のメンバーである梓(あずさ)と花梨(かりん)だ。

「乃愛ちゃん、一緒に帰ろ〜!」

「駅前においしいパフェのお店ができたんだって!そこに寄ってこ!」

楽しそうに話す二人だったが、乃愛はすぐに「ごめん、今日はちょっと……」と謝る。梓と花梨はすぐに納得した顔を見せた。

「乃愛ちゃんって本当にお菓子作り大好きだよね〜。部活がない日も家庭科室に行ってさ」
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