私の「運命の人」
花梨がそう言うと、梓も首を縦に振る。三人は家庭部に所属しており、部活がある水曜日には家庭科室で料理やお菓子を作っている。しかし、乃愛は部活がない日も時々家庭科室に足を運び、お菓子作りを楽しんでいた。

「今日は何を作る予定なの？」

「今日はカップケーキを作る予定だよ」

梓の問いに乃愛が答えると、二人はこれからパフェを食べに行く予定だというのに、「私もほしい！」と目を輝かせながら言う。乃愛が「いいよ」と言うと、二人は「やった！」と大げさなほど喜びながら教室を出て行こうとする。しかし、途中で梓が立ち止まって言った。

「あんまり遅くまで残っちゃダメだよ？婚約者が心配するし、もしかしたらあの教師に狙われるかもしれないから」

梓は本気で心配しているとわかっている。しかし、乃愛の胸はまるでナイフで抉られたかのように痛い。「あの教師」が誰のことを指しているのか、乃愛には嫌でもわかる。

「大丈夫だよ」

傷付いていないフリをして、乃愛は友達二人と反対方向に歩き始めた。階段を降り、一階の突き当たりにある家庭科室に向かう。誰もいない家庭科室は暗く、静まり返っている。
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