私の「運命の人」
「よし、作るぞ!」

乃愛は部屋の電気をつけ、持ってきた赤いギンガムチェックのエプロンを身に纏う。薬指に嵌められた指輪を外すと、薬指が一気に軽くなった気がした。

これから家庭科室は賑やかな音に包まれていくのだ。この瞬間だけは、婚約者のことを忘れることができ、乃愛の顔に自然と笑みが浮かぶ。

ボウルに卵白と砂糖を入れ、ハンドミキサーで泡立てる。そこに卵黄を加え、生地がもったりしたら牛乳を入れてさらに混ぜ合わせる。薄力粉を入れてゴムベラで粉っぽさがなくなるまで混ぜ、サラダ油を入れる。生地ができたらあとは型に入れ、オーブンで十五分焼くだけだ。

「おいしくできますように!」

そう祈りながら乃愛はボウルなどを洗い、焼き上がるのを待つ。十五分後、焼き上がったカップケーキの粗熱を取る。

いつもながらば粉砂糖を振りかけて完成なのだが、乃愛は鞄の中からバタークリームやトッピングシュガーなどを取り出した。今日はとびきり可愛くデコレーションしたいと思ったのだ。

ピンクのバタークリームの上に、トッピングシュガーを慎重にかけていく。しばらくすると、乃愛の目の前にはSNSで映えそうな可愛らしいカップケーキがあった。

「できた!」

花梨と梓に渡す分をラッピングし、乃愛は残りのカップケーキを食べようと椅子に座る。その時だった。
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