冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
序章
序章
恋も愛も信じない。誰にも好かれないし、誰のことも好きにならない。大槻蛍という人間はずっとそうやって生きてきた。
(なのに、私が結婚?)
人生は本当になにが起きるかわからない。
「すべて解決したら離婚すればいいさ」
「戸籍にバツ? それで君の父親に貸しを作れるなら大歓迎だ」
結婚相手となった菅井左京は蛍以上に愛を信じていない男だった。世の中には結婚という契約をこんなにも軽く考える人間がいるのかと、蛍は純粋な驚きを覚えた。
ちっとも笑っていない瞳で、彼は口元だけで薄く笑む。
「君は自分の身を守るため、俺は出世のため。俺たちはいい夫婦になれる」
契約締結の証のつもりだろうか、スッと手を差し出した。節の目立つ、男らしい大きな手を見つめて蛍は浅く息を吐く。
心の底から不本意だけれど、この手を取る以外の道は蛍には用意されていなかった。
「……よろしくお願いします」
偽りだらけの結婚生活はこうして幕を開けた。