冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 思い出話に花が咲く。蛍も子どもの頃はバレエを習っていて、美理とは同じ教室の仲間だった。もっとも蛍のほうは祇園を出るのと同時にバレエはやめてしまって、現在は中堅食品メーカー勤務の平凡なOLだけれど。

 他愛ない話をしていたところで店員がオーダーを取りに来た。美理はホットのレモンティー、蛍はアイスラテを頼む。

「でもさ」

 ややしんみりした声で美理はぽつりとこぼした。

「小さい頃に蛍とした約束は叶えられなかったなぁ」
「え?」
「ふたりで一緒に、世界で活躍するダンサーになろうねって」
「あぁ」

 小学校六年生のときだ。卒業文集に書く将来の夢についてふたりで話していて、そんな約束をたしかにした。

「私は叶えられなかったけど、美理は何度か海外公演にも行ったじゃない」
「……あのときはコールドだったし」

 彼女はおどけたように肩をすくめる。コールドとは集団で揃って踊るダンサーのこと。バレエ団の序列では一番下の地位になる。でも、その場所まで行くのだって決して簡単じゃない。そういう世界だ。

「蛍のぶんまでがんばるって決めたのに、結局挫折しちゃってごめんね」
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