冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
「海堂家の迷惑にならないように、きちんとおとなしくしておきますから心配しないでください」

 白状すると海堂家のためにという気持ちは全然ないが、蛍は晋也には感謝していた。厄介者でしかない自分のことをいつも気遣い、細々とフォローしてくれる。図々しいだろうが、自分にとっては兄のような存在と思っていた。

 今の台詞はその彼を安心させるためのものだ。

 それからふと、蛍は聞いてみた。

「海堂さんや芙由美さんは、なにかおっしゃっていますか?」

 赤霧会のことも左京との結婚も、海堂家サイドの話は晋也から聞くだけで治郎やその妻である芙由美の気持ちは一度も聞いていない。彼らは今、どういう思いでいるのだろう。

「え、あぁ……」

 わずかに言葉を詰まらせたあとで晋也は続けた。

「海堂先生は蛍さんのことをとても心配なさっていますよ」

 サラサラと紡がれたその言葉は、きっと優しい嘘なのだろう。

(どうでもいい、なにも思っていないってことね)

 察したけれど、あえて指摘はしなかった。

「困っていることなどはないか?」と聞く晋也に「本当に大丈夫ですから」と返事をして、通話を終えた。

(赤霧会って意外と間抜けよね)
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