冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 成城という一等地では考えられないほど広大な敷地に佇む日本家屋。なによりインパクトがあるのが要塞のように高い塀だ。
 渋い和風庭園を進んだ先に母屋があった。入口の前にはSPらしき屈強な男性がふたり、にらみをきかせている。

「すごいですね」
「あぁ、ここにくるのは仕事より疲れる」
「左京!」

 重々しい場とは対照的な優しい声が響いた。振り返ると、五十代半ばくらいの小柄で上品な女性がこちらに向かって歩いてくる。

「俺の母親」

 そう言って、左京が彼女を紹介してくれた。

(この女性が左京さんのお母さま!)

「はじめまして。左京の母、菅井貴子(たかこ)です」

 親しみやすい笑顔のかわいらしい雰囲気の人だった。左京とはあまり似ていないかと思ったけれど、よく見ると口元はそっくりだ。

 蛍は慌てて頭をさげる。

「蛍と申します。ごあいさつが遅れてしまって本当に申し訳ございません」
「説明したとおり事情が事情だから、婚姻届の提出を急がせてもらったんだ」

 左京がフォローを入れてくれる。ふたりの結婚が赤霧会絡みであることは当然、貴子も知っているようだ。

 優しく首を横に振って、貴子は蛍の手を握る。
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