冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
「そんなこと気にしないで。怖い思いをしたでしょう」

 表情にも言葉にも、心からの気遣いがにじんでいた。貴子が素敵な人であることがこの一瞬だけでもわかった。

 三人で話をしながら母屋に向かう。

「同じ関東とはいえ、ちょっと遠いのよねぇ」

 貴子は左京の大学進学を機に自分の故郷である神奈川県小田原市に戻って、今もそちらで暮らしているらしい。

「毎回顔を出さなくても適当に理由をつけて断ってもいいのに」
「あら、田舎扱いしないでちょうだい」
「自分で遠いと言ったんじゃないか。それに、菅井の集まりは嫌な思いをするだけだろう」

 左京の言葉に貴子は苦笑を返す。

「まったくそのとおりなんだけど。私が参加しないと、あの人たちがまた京一(きょういち)さんを悪く言うでしょう。『嫁選びに失敗した』とかなんとか。それだけは我慢ならないので、雨でも雪でも参加します」

 貴子は毅然と言い切った。『京一さん』はきっと左京の父だろう。

(口元だけじゃなくて、芯の強さもお母さま似だ)

 今のやり取りを聞くかぎり、菅井一族のなかで貴子は肩身の狭い思いをずっとしてきたのかもしれない。
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