冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
〝大槻蛍〟が京都で会った彼女だと知ったときは驚いたし、どこか運命的なものを感じはした。だが、自分が女を愛することになるとは……露ほども思っていなかった。

 彼女も彼女で、左京と同じかそれ以上に愛を信じない人間だった。自分と彼女なら面倒のない偽装結婚が成立する、そう確信したからこそあっさりと婚姻届を提出するに至った。

(いつから溺れていたんだろか)

 彼女とのこれまでを思い返す。

 京都で初めて会ったとき、凛とした立ち姿とどこか寂しげな瞳に目を奪われた。

 尾行の事実を告げ、彼女を助けたのは警察としての責任感から。それは嘘じゃないが、心の奥底に別の感情が湧いていたのかもしれない。

『あの人のお金にはできるだけ頼りたくないんです。頼ったら憎むこともできなくなるから……。くだらない意地なのはわかっていますけど』

 この台詞を聞いたのは彼女に同居を説得するときだった。

 自分とよく似た、くだらない意地を必死に抱えて生きてきた彼女がいじらしくて、守ってやりたいと思った。あのときの感情はもう、警察としての責任をこえていた。

『離婚届も一緒にもらっておけばよかったかなと思いまして』
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