冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 にこやかにほほ笑んでいれば、モデルや俳優かと思ったかもしれない。けれど、彼の表情は険しく眉間に深いシワが刻まれている。

(なにをしているんだろう、あの人)

 京都にだって企業はたくさんある。出張でやってきたビジネスマンが空いた時間に観光をしていても不思議はないのだが……彼はそういう雰囲気ではないのだ。
 鋭い目でなにかを警戒するように周囲をうかがっている。完璧すぎる美形だからこそ、妙なすごみがあって蛍は本能的な恐怖心を抱いた。

(悪い人なのかも。堅気じゃないって感じ?)

 そういうつもりで見てみると、自分の想像はかぎりなく正解に近いように思えた。

 年は三十代、まだ前半ってところだろう。それにしてはかなり上等なスーツだ。靴も時計も、遠目にも高価なのがわかる。近頃のヤクザはインテリで、いかにもな格好はしないと聞く。彼もそういう人種かもしれない。

(関わり合いにならないようにしよう)

 あんまりジロジロ見つめていたら怒らせてしまうかも。蛍は急いで視線をそらそうとしたが、一拍遅かった。恐ろしいほどに強い眼差しが蛍を射貫く。彼は口を引き結んだままこちらを見据えている。

(……怖い!)
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