冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 背筋に冷たいものが走って、蛍はパッと顔を背けて彼から遠ざかるように足を速める。露骨におびえたことで怒らせたのだろうか。ツカツカと追いかけてくる靴音が耳に届く。おそらくすぐ近くまで来ている。

(どうしよう、どうしたら)

 止まってジロジロ見ていたことを謝罪したほうがいいのか、それとも走って逃げるべきか。迷っている間に男に追いつかれた。

「きゃっ」

 彼はいきなり蛍の手をつかむと、短く告げた。

「いいか。死ぬ気で、全力で走れっ」
「えっ?」

 イエスなんて答えていないのに彼は蛍を引っ張って駆け出した。人の多いほうを選んでいるらしく、多くの人に迷惑そうな顔をされながらふたりは祇園の街を走り抜けた。

 どのくらい走ったのだろう。気がつけば、少し先に京都駅が見えるところまで来ていた。オフィス街の小さな公園でふたりは止まって、呼吸を整えた。

「まいたか」

 周囲をぐるりと見渡したあとで、彼がつぶやく。

(まいたってなに?)

「あ、あの!」
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