冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 そこに愛はないかもしれないけど警察官として夫として、彼は蛍の安全は確保してくれると思うのだ。左京はそういう男だ。

 弁当を食べ終えた蛍は晋也に電話をかけた。彼はすぐに応答してくれて、蛍は昨日の返事をしたいと告げたら「決断が早いですね」と驚いていた。

 蛍は深呼吸をひとつして、しっかりと目を開いた。

「芙由美さんに伝えてください。私は海外へは行きません。日本に残ります」

 スマホの向こうで晋也が息をのむ。

『……てっきり海外へ行かれる決心をしたのかと。だからこうして早々に連絡をくださったものとばかり』

 晋也の声には混乱がありありと浮かんでいた。彼は芙由美に賛成していたし、蛍の決断は想定外だったのかもしれない。

『蛍さん。もう一度よく考えたほうがよろしいのでは?』

 晋也にしては厳しい声だった。けれど蛍はきっぱりと告げる。

「いいえ。日本に、彼のそばにいたいんです」
『彼……とはもしかして菅井さんのことですか?』
「はい」
『考え直す気は……』
「ありません」

 長い沈黙が落ちた。

『かしこまりました。では奥さまに伝えます』
「よろしくお願いします」
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