冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 蛍は勇気を振り絞って抗議の声をあげた。至近距離でぱちりと目が合う。さっきは、絶対に堅気の人間じゃないと思ったけれど、会社員の行き交うこの辺りにいるとごく普通のビジネスマンに見えないこともない。

(むしろエリートっぽい?)

 高価なスーツに身を包めるのは、インテリヤクザだからなのか、育ちのいいエリートだからか。よくわからなくなってしまった。

 背の高い彼が蛍を見おろす。彼は親指で自身の顎を撫で、なぜか楽しげに頬を緩めた。

「驚いた。君は見かけによらず体力があるな」
「へ?」

 間の抜けた声が出たが、それも当然だろう。こんな言葉をかけられるとは想像もしていなかった。

「俺の足についてきてたし、結構な距離を走ったにも関わらずさほど息があがっていない。なにかスポーツをしていたか?」

 探るような瞳は異様に鋭い。蛍のすべてを暴こうとするみたいで、不愉快だった。

「そんなこと、あなたに話す義務はありません」
「まぁ、そのとおりだな」

 つっけんどんな蛍とは対照的に彼は余裕たっぷりだ。

「だいたいあなたは誰で、私になんの用ですか?」
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