冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 完全に他人事といった調子で晋也がぽつりとつぶやいた。

(……払うわけがない。私は海堂とはなんの関係もない一般庶民。赤霧会の事件には不運にも巻き込まれただけ)

 蛍がどうなろうと治郎はそれで押し通すだろう。

 蛍はギュッときつく目をつむった。左京の笑顔がそこに浮かぶ。

『蛍のことは俺が必ず守る』

 今の蛍にできることはあの言葉を信じて、諦めないことだ。

(左京さんが助けに来てくれるかもしれない。そのとき足手まといにならないよう、どんなに怖くてもシャンとしていないと)

 恐ろしくて気が狂いそうになる自分をどうにか奮い立たせた。

 暗く静かな倉庫街。蛍はそこで車からおろされた。

 かすかに波の音がするので海が近いのだろう。

「おぅ、首尾よくやったか」
「騒ぎになったりしてないだろうな?」
「……は、はい」

 いかにもな風貌の怖い男たち三人に囲まれ、晋也は小さくなっている。彼らのなかでも一番偉そうにしている男が蛍の腕を引く。

「こっちだ、来い」
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