冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 まず、人質事件ともなればさすがに世間が大騒ぎする。海堂家の力を持ってしてもメディアを押さえつけることは難しく、隠し子である蛍の存在は公になるだろう。

 家族思いでクリーンな政治家を売りにしていた治郎のイメージダウンはまぬがれず、犬伏としてはささやかな復讐を達成できることになる。

(さらに、違法賭博規制の強化に賛成するほかの政治家への最高の脅しにもなる)

 本命の狙いはもちろんこっちだろう。

 権力を握る大物政治家ほど、結局は〝自分が一番かわいい〟のだ。自身や家族の命に危険が迫るとなれば違法賭博くらいは目をつむるかもしれない。

(どちらにしても、蛍に〝人質〟の価値がなければ成立しない。海堂治郎が見捨てたら犬伏の計画は徒労に終わる)

 だが、海堂家は蛍を助けるだろう。蛍が想像しているよりはずっと治郎は彼女を愛しているのだ。蛍と結婚して守ってやってほしいと頼まれたときに、左京はそれを悟った。

 晋也は左京以上にそれを知っているだろうから、赤霧会が蛍をターゲットに選んだ可能性はやはり高い。

 左京は自身の頬をパンと叩いて気を引き締め直す。

 ここからは一秒の猶予もなく、間違いは絶対に許されない。
< 186 / 219 >

この作品をシェア

pagetop