冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
◇ ◇ ◇

 犬伏の指先がするりと蛍のスカートの裾から侵入してくる。耐えがたい嫌悪感に蛍はギュッと身を固くする。

(嫌だ。こんな人に触れられたくない。助けて……左京さん、左京さん!)

 犬伏は今まさに蛍に牙を向こうとしていて、もう間に合わないと頭のどこかで理解してはいた。

 それでも蛍は必死に彼を求めた。

 その瞬間、外でパァーンと弾けるような音が響いた。犬伏の手をぴたりと止まる。

(なんの音?)

「銃声だっ」

 先ほど蛍をここに押し込んだ体格のいい男が慌てたような声を出す。その声に重なり、もう数発の銃声が鳴った。

「サツ……にしちゃ到着が早すぎるな。誰だ?」

 男たちの間に困惑が広がるのが見て取れた。犬伏はチッと舌打ちをして、地を這うような低い声を出す。

「誰だろうとここで邪魔されちゃあ困るな」

 彼の部下は警察にしては早いと言ったが、犬伏は警察である可能性を考慮したのだろう。

 ズボンの後ろポケットから取り出したものを蛍の頭に突きつける。蛍の背筋が凍る。

 銃口の感触など生まれて初めて知った。硬くて重い。

 命令に従い、赤霧会の三人が慎重に扉に近づいていく。晋也はガタガタと震えて頭を抱えていた。
< 188 / 219 >

この作品をシェア

pagetop