冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
　なぜ初対面の人間に腕を引かれ長距離走をするはめになったのか。その理由が知りたい。

「ただ観光していただけの私がなにをしたっていうんでしょう」
「それを、俺も知りたい」

　ニヤリとほほ笑む彼には、有無を言わせない圧がある。

（やっぱり普通のビジネスマンには見えない）

　蛍は深呼吸をひとつしてから、彼に問う。

「あなたのような方々は一般人には手を出さないのが掟なんじゃないんですか？」

　少なくとも任侠映画ではそうだった。彼はパチパチと目を瞬いたかと思うと「ぷはっ」と噴き出した。こぶしを口元に当てて笑いをこらえている。

「と、とにかくこれ以上なにかするなら警察に連絡を」

　蛍は警戒心をあらわにして、バッグからスマホを取り出す。

「俺をヤクザかチンピラだと思ったわけか。ま、当たらずとも遠からず。なかなかいい勘してるな」

　それはつまり、ヤクザなのかそうでないのか。はっきりしてほしい。

「けど、そういう人間と関わりがあるのはそっちだろう」

　低い声がひやりと冷たく響く。
　彼の言いたいことがさっぱりわからない。蛍は眉をひそめた。
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