冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
「大丈夫です。左京さんはきっと来てくれるってわかっていたから」

 彼の温かい胸のなかは蛍が生まれて初めて得た、心から安心できる居場所だ。

 左京のまっすぐな視線が蛍を射貫く。

「こんな俺に資格があるかはわからない。だけど蛍、君に聞いてほしいことがある」
「なんでしょうか」
「好きだ。恋だの愛だの、そんなものは邪魔にしかならないと思っていた俺が……どうしようもないほどに君を愛してしまった」

 心を丸ごとさらけ出すような愛の告白が蛍の胸を打つ。嘘偽りのない彼の本心だということが伝わってくる。

(むしろ、どうして演技だと疑ったりしたんだろう。左京さんは最初からまっすぐに心を伝えてくれる人だったじゃない)

 偽りの夫婦になる決意をしたあの日を思い出す。

『君は自分の身を守るため、俺は出世のため。俺たちはいい夫婦になれる』

 彼は嘘をつかず正直にそう言った。愛を信じない者同士の契約結婚、自分たちはそうやって始まったのだ。

 蛍はそっと手を伸ばし、彼の頬にふれる。

「奇遇ですね。私も愛は信じないはずだったのに、どうしようもなくあなたを愛してしまいました」
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