冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 そうして後方から不意打ちで犬伏を攻撃した。

 以上があの場で起きていたことの全容らしい。赤霧会より警察のほうが一枚も二枚も上手だったということだ。

 だが左京は申し訳なさそうな顔で続けた。

「蛍が車からおりるタイミングで、怪我をさせずに救出可能ならそうするよう頼んであったんだが……表に残ったひとりでは不可能と判断したんだろう。あるいは、彼は上から犬伏の到着まで待てと指示を受けていたのかもしれない」

 左京は蛍をすぐに救出できなかったことを悔いているようだった。彼のその表情を見て蛍は「やっぱり」という思いを深くした。

(左京さんは私を囮にする気なんてなかった。菅井本家で聞いた言葉はなにか誤解があったんだわ)

「救出が遅れて、長いこと怖い思いをさせて申し訳なかった」
「謝らないでください。逆に警察がきちんと犬伏をつかまえてくれてよかったです。あんな目にあったのに、肝心の彼が逃げてしまったら私も悔しかったと思います」
「――ありがとう」

 左京の表情がやっとやわらいだ。
< 198 / 219 >

この作品をシェア

pagetop