冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
「おっしゃっている意味が理解できません。私は善良な市民で、あなた方とはいっさい関係のない人間です」

 はっきりしないので、とりあえず彼をヤクザと仮定して話を進めることにする。

「なるほど、心当たりはなしか」

 彼は途端に真剣な顔になって、蛍の肩に両手を置く。

「いいか。今から俺が話す話を真面目に聞け。――君自身のために」

 どう考えても信じるに足る人間ではなさそうなのに、蛍は逃げずに彼の言葉の続きを待った。美しい黒い瞳がまっすぐに蛍を見つめたからだ。この目で嘘をつける人間はそう多くはないだろうと思ったから。それとも、平然とした顔で嘘をつけるのがヤクザという人種なのだろうか。

「さっき、俺たちが会った四条通。あそこに若い男女のカップルがいたのを覚えているか?」

 言われたとおりに記憶をたどる。

「えっと、はい」

 彼を認識する少し前にカップルを見た覚えがある。男性のほうが鮮やかな赤髪だったので印象に残っていた。

「彼らがなにか? ごく普通の恋人同士としか思いませんでしたけど」
「チンピラは俺じゃなくてあの男のほう。あいつは間違いなく裏社会の人間だ。匂いでわかる」

(匂いってなに?)
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