冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 また重たい沈黙が横たわる。

 治郎は緊張しているのか落ち着きがなく、テレビで見る大物政治家とは別人みたいだ。

「あの」

 謝罪も弁解もいらない。そう告げようとした蛍の言葉を遮って、彼が頭をさげた。

「すまない。本当に申し訳なかった」

 治郎の声を膝の上で握り締めたこぶしもかすかに震えていた。

(これが演技なら名優になれそうだけど……でも政治家だしね)

 政治家なんてみんな演技が上手なのかもしれない。

「事件の件ならもう」

 治郎のせいとは言い切れないし、事件があったからこそ蛍と左京は出会うことができた。その意味では少しだけこの運命に感謝もしている。

「いや、事件のことだけじゃない。これまでのこともすべて……本当に申し訳なかったと思ってる」

 治郎は顔をあげて真摯な声でそう言った。

「圧力、かけなくてよかったんですか?」
「え?」
「メディアにですよ」
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