冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 治郎の返事を待たずに「それじゃあ」と蛍は席を立つ。治郎は引き止めなかった。

 このあとは休日出勤している左京と合流してデートを楽しむ予定になっている。

(左京さん、そろそろ仕事終わったかな?)

 足早に海堂家の洋風ガーデンを歩いていると向こうから歩いてくる芙由美とすれ違った。あいかわらず治郎よりよほど威厳に満ちていた。

「あら、もう帰っちゃうの? もっとゆっくりしていったらいいのに」

 嫌みなのかそうでないのか、彼女の胸のうちはさっぱり読めない。

「いえ、夫と約束しているので。お邪魔しました」

 蛍は軽く会釈をして通り過ぎようとする。

「あなたも馬鹿ねぇ」

 どういう意味か?という顔をした蛍に芙由美はあきれた笑みを浮かべる。

「私は政治家の娘として生まれて政治家の妻として生きてきたけど、いいことなんてな~んにもないわよ。面倒ばっかりね!」

 うんざりした顔で芙由美は吐き捨てる。

 彼女の言いたいことがわからず蛍は足を止め、黙って芙由美の顔を見返す。 
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