冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
「普通のOLさん、『大槻蛍』でいたほうが絶対に幸せ、あなたのお母さんもそれを望んでいたのに……警察官僚なんかと本当に結婚しちゃうなんて」

 蛍を見てかすかに細められた芙由美の瞳に親愛のようなものが感じられて蛍は戸惑った。

「だから私を海堂家から遠ざけていたんですか? バレエコンクールのときも?」

 隠し子と騒がれることを彼女が徹底阻止してきたのは、海堂家の名誉だけでなく蛍自身のためでもあったんだろうか。

(それはお母さんの願いでもあった? もしかして芙由美さんはお母さんと話をしたことが?)

 あれこれ考えて混乱する蛍を見て、芙由美は悪役めいた高笑いをしてみせる。

「あなたは本当に甘ちゃんね。政治家も官僚も信用ならないけど、政治家の妻はそれ以上。嘘ばっかりの生きものよ」

 ヒラヒラと手を振って、芙由美は屋敷のほうへと向かっていく。

 蛍はその背中に小さく言った。

「ありがとうございました」

 きっと聞こえていたと思うけれど、彼女は聞こえないふりをして行ってしまった。

 もうひとつ、左京が教えてくれたことがある。
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