冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 目の前の男がなにを言いたいのか、蛍にはさっぱりわからない。怪訝そうな蛍に説明するように彼は続けた。

「まず……あのふたりは恋人じゃない」
「え?」
「仲良く腕を組んでいるのに、いっさい会話がなく……目を合わせてもいなかった。おそらく、観光地で目立たないように恋人同士のふりをしていたんだろう」

(この人、何者なんだろう。やっぱり普通のビジネスマンとは思えない)

 探偵のような洞察力は見事だと思う。けれど、どうして自分が彼の推理を聞かなくてはならないのか。よくわからないことに巻き込まれるのはごめんだった。

「もしそうだとしても、私には関係のないことですから」

 そこで彼はグッと距離を詰めてきた。蛍の耳元の顔を近づけ、ささやく。

「あのカップルは君を尾行していた」
「え?」

 思いがけない台詞に蛍は目を見開く。

「君に怪しまれずに尾行をするため、カップルのふりをしていたんだ」

(尾行って……推理小説じゃあるまいし)

 現実でそんな単語を耳にしたのは初めてかもしれない。呆気に取られている蛍に彼は淡々と説明する。
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