冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
「ひとりです。今日の夜には東京へ」

 馬鹿正直に答えてしまった。だが、嘘をついてもきっと見抜かれる。そんな気がした。

「可能ならあいつらに見つかる前に、このまま新幹線に乗れ。ただの人違いなら問題ないが、そうじゃなったらまずい。用心しておいて損はないだろう」

 こんな事態になるとは予想もしていなかったので困惑するばかりだが、蛍は素直にうなずく。彼の言葉が正論だと思えたからだ。

(そうね、用心してなにもなければそれでいい)

 幸い、大きい荷物は京都駅のコインロッカーに預けてあるのでこのまま駅に向かい新幹線の時間を早めることはできる。

「わかりました。そうします」
 その答えに彼は安堵したようで、ふっと頬を緩めた。
「同行してやれたらいいんだが、あいにく仕事が残っていてな。気をつけて」
 彼はポンと蛍の肩を叩き、そのまますれ違う。

「あの!」
 思わず呼び止めてしまった。彼がゆっくりと振り返る。
「なんだ?」
「あなたは何者なんですか」

 観察眼といい行動力といい、ただ者ではないという気がした。そもそも普通の人間は怪しい人物を見かけたからって、見知らぬ女のためにここまでしないだろう。
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