冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
(さっきの男の仲間とか、敵対組織の人とか?)

 とにかく関係者なんじゃないだろうか。蛍が疑いを抱いていることを察したのだろう。彼はおかしそうに目を細める。

「さっきも言っただろう。ヤクザでもチンピラでもないが、そう遠くない存在ってとこ」

 蛍の頭は疑問符でいっぱいになる。

「あぁ、そうだ。君がしていたスポーツ、いや、あれはスポーツとは呼ばないのか?」
 自問自答して、彼は軽く首をひねった。
「え?」
「踊るほうのバレエ、正解だろう?」

 ニヤリと笑うと、彼は答えを聞かずにもう一度前を向く。
「じゃあな」
 背中で言って、雑踏のなかに消えていった。

(バレエ、なんでわかったんだろう)

 蛍は呆然と彼の消えていった方角を見つめた。自分は彼が何者なのかちっともわからなかったのに、なんだか悔しい。
 一応助けてもらった立場なのに、礼のひとつも言えなかった。そのことに気がついたのは、予定より数時間早い新幹線に乗り込んでからだった。
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