冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 彼女のもくろみどおり、近くの席の社員たちが耳をそばだてているのがわかった。次の瞬間、唯はかわいらしく顔の前で両手を合わせた。

「本当にごめんさい! 向こうのみなさんが大槻さんだけは呼ばないでほしいって。私はそんなのひどいって抗議したんですけど!」

 聞いていた誰かがクスリと笑う声が聞こえた。

「かわいそ」
「でもまぁ、楽しく酒を飲みたいときにはね~」

 続いて揶揄するような男性社員たちの言葉も耳に届く。

 けれど蛍は顔色ひとつ変えなかった。強がっているわけではく、本当にどうでもいいのだ。懇親会も同僚からの評判も。

「私は構わないよ。気にせず楽しんできて」

 平然としている蛍に、唯はつまらなそうに小さく舌打ちした。ゆるふわな外見に反して彼女がとても気が強いことは知っているので驚かない。

「ここで寂しそうな顔でもすれば、助けてあげたくなるのにな」
「ないない。そんなかわいげがあったら、最初から誘われてるって」

 聞こえてくる意見はもっともだと蛍も思う。たしかに自分には愛想が足りない。だから職場でも浮いた存在なのだろう。

(でも……無理してまで職場の人と親しくする意義も見出せないし)
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