冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 これから、蛍にとって唯一の友人といえる前川(まえかわ)美理に会いに行く。彼女とお茶をするこの予定がなければ、ずっとひとりきりの寂しい旅になるところだった。

 待ち合わせの喫茶店に入ると、彼女はすでに到着していて片手をあげて蛍を呼んだ。

「こっち、こっち! 久しぶり」

 色素の薄い栗色の瞳が優しく細められる。小顔で首がスラリと長い。この幼なじみ以上に『可憐』という言葉が似合う女性を蛍は知らない。

 美理の正面に蛍が座ると同時に彼女は喋り出す。

「私がこっちに帰ってきてからはなかなか会えてなかったもんね。最後に会ったのは『コッペリア』の公演のときかな?」
「うん、美理の引退公演だったから最前列で観たもの」

 彼女はつい最近までクラシックバレエのダンサーをしていた。東京に拠点を置く、国内でも一、二を争う大きなバレエ団のソリストとして活躍。けれど、半年ほど前に引退・結婚し、地元である京都に帰ってしまったのだ。親友の結婚は喜ばしいことだけれど、距離が離れてしまったことはやはり寂しい。

「新婚生活はどう? それから仕事も」
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