冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす

　彼女の夫は老舗呉服店の跡取り息子。美理も関西では高級住宅街として知られる下鴨に実家のあるお嬢さまなのでお似合いだ。親族の紹介で結婚に至ったと聞いている。

「楽しく暮らしてるよ！　あの人、天然だから困っちゃうときもあるけど」
「あぁ、そんな感じ」

　結婚式で紹介してもらった彼を思い浮かべて蛍はクスッと笑む。飄々としていてマイペースな男性だった。でも、しっかり者の美理とはいいコンビだと思う。

「仕事もね、私にはダンサーより向いているかな～なんて」
「そうなの？」
「うん、私は天才タイプじゃなくて努力型だったから。その経験が指導にいかせると思うんだ」

　美理は所属していたバレエ団の系列の教室で先生を始めている。第二のキャリアってやつだ。本人の言うとおり、彼女は頭がよく努力に方向性を間違わない。その能力でダンサーとして花開いたタイプなので教える仕事は適任だろう。

「ほら、美代(みよ)先生とか覚えてる？」
「覚えてるよ。懐かしいな」
「ああいう才能と芸術センスの塊！みたいな先生って、こっちの悩みをあんまり理解してくれなかったりしてさ……」
「あはは。わかるかも」