冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 推理小説などでは犯人の動機や感情の動きが読者にも納得できるよう説明されるものだが、現実の犯罪者の動機なんてものは驚くほど意味不明だ。

 リスクとリターンがまったく釣り合っていなかったり、何度考えても『そんなことで?』としか思えないような理由だったり。

 島が話をまとめに入る。

「とにかく、現状では実光時代の因縁くらいしか浮かんできませんでした。海堂治郎は政治家とは思えないほど評判がいいんですよね~。本当にクリーンなのか、口封じを徹底しているのか」
「後者じゃないのか」

 左京が皮肉げに唇の端をあげると、島は軽く肩をすくめた。

「菅井さんがそうおっしゃるならもう少しつついてみます」
「頼んだ」

 そこで島の瞳が好奇心にキラリと輝く。

「菅井さん、海堂治郎になにか思うところでも?」
「あ?」

 想定外の指摘に左京は食べかけのカレーを詰まらせた。慌てて水を飲み、こぶしで胸を叩く。

 島はニヤニヤとその様子を眺めている。

「いや。事件関係者への個人的感情をあらわにするの、珍しいなぁと思いまして」

(失態だった)
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