スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
「見解って」
 これ見よがしに溜め息をつかれた。
「バリバリ創作に関わるところでしょう。もし結婚がなくなったら貴博さんのパトロン宣言も白紙に戻るでしょうし。それとも、別れても投資し続けてくれるほど彼は脚本家としての深雪さんに惚れ込んでるんですか?」
 彼女の問いに、答えることができなかった。仮にそうだと返せば、女としての自分は必要とされていないと、はっきりと認めることになる。
「ごめんなさい。意地悪なこと聞いちゃいましたかね」
 こちらが黙っていると、奈央子はあっさり引き下がり「でも」と続けた。
「さすがに見ててイライラしますよ。深雪さんも勇也さんも」
「俺も?」
 怪訝な表情を浮かべる勇也さんに対して、彼女は軽く鼻を鳴らす。
「むしろ勇也さんの方が重症でしょう。結婚話はビビッてスルーして、ビジネスパートナーの地位だけ守ろうとするとか馬鹿みたいじゃないですか。まだビジネスでも何でもないですからね」
「……言うなよ」
「すいません。次の舞台が勝手に映画に変更されそうだったので、つい。私は舞台が好きなんです。今ここにしか存在しないお芝居が。記録に残らなくても記憶に残せたらいいって、勇也さんもどちらかといえばそういう人でしょう」
 彼が曖昧に頷く。私もそれは分かっていたから、映画撮影に乗り気な態度に戸惑ったのだった。
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