スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
「勇也さんも奈央子も、お騒がせしてごめんなさい。私が劇団を辞めるから、次回公演は誰か他の演出を立てて――」
「何で!?」
 急に二人の声が重なった。そしてお互いに顔を見合わせ、勇也さんから口を開いた。
「別に今すぐ辞める必要はないだろう。白黒つけないのがウチのモットーなんだから、例えば深雪がプロとして稼げるようになって、アマチュア劇団に無償で脚本提供なんかやってられないと思うまでは、好きなだけカフェオレにいればいいじゃないか」
「そうですよ。それに戦略的なことなんか何にも考えずに自由に書きたいものを書ける場所があった方が、これから創作漬けになるかもしれない深雪さんの精神衛生的にはいいと思います」
 何故かそこだけ息ぴったりで、二人で頷き合っていた。
「というか、私は今日は深雪さんの恋バナの続きを聞くためにお呼ばれしたのであって、結婚後の展望なんて皮算用がすぎるんですよ」
「それは、そうかも」
 私はまだ貴博さんのご両親、特に母親から結婚を反対されている立場である。
「でも二人の気持ちは固まっているわけですよね。だったらもう既成事実を作っちゃってもいいんじゃないですか?」
 奈央子は実に恋愛至上主義者らしい提案を口にした。
「既成事実?」
「例えば、先に籍だけ入れちゃうとか」
「さすがにそれは」
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