スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
 ただ、貴博さんも母親の前で似たようなことを口走っていた。行動派は思い付きをそのまま実行に移そうとするから困る。
「じゃあ逆に、式だけ挙げちゃいましょうか?」
「いや、だから……どうしてそういう発想になるかな」
 私も追い込まれると突飛な言動に走ってしまう自覚があるが、それはあくまで切羽詰まった苦し紛れから生まれたものだ。力業でゴリ押しすることを本来は好まないし、できることなら綿密な計画を立て、シミュレーション通りにことを運びたい人間なのだ。
「あのね、結婚式っていうのはみんなに祝福されてこそ――」
「いいこと思い付きました」
 奈央子がパッと笑顔を咲かせる。
「絶対に怖いこと思い付いたね」
「劇団カフェオレの次回公演はお二人の結婚式にしましょうよ。お客様の前で愛を誓う人前式です」
「!?」
「ほら、結婚式って決まったプログラムがあって、それを参列者に見せびらかしていくものじゃないですか。なんか演劇に通じるところがある気がしません?」
「……しません」
 酔っ払っているのだろうか。私も奈央子も手元のグラスが空になっていたので、二杯目はチェイサー代わりのウーロン茶を頼んだ。
「ウェディングドレスなんて衣装の最たるものだし、音響とか照明とかいろんな小道具で会場を盛り上げるし、美しいハッピーエンドが待ってるし」
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