スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
 ならば構わない。
「これから二ヶ月近く、それしか考えられない日々が続くからね」
「え?」
「本気でヒロを演じてたらそうなるって話。仕事してる時もデートしてる時も、自分がヒロならどうするかって考え始めたら役者を名乗ってもいいかな」
 その特殊な設定上、仕事をしている時というのは考えにくいかもしれないが。
「ちょっと待ってください。貴博さん、彼女いるんですか? 深雪さん、それ知ってるんですか?」
 奈央子の問いに、私と貴博さんはほぼ同時に答えていた。
 私は「そりゃいるでしょう」と。
 彼は「いるわけないだろう」と。
 そして変な間が生まれる。
「もしかして、あの後完全に振られちゃったの?」
「そこ勘違いしたままだったな。俺はあの時、振られたんじゃなくて振ったんだ。で、あの女がキレて……まあ、ああなった」
 そうだったのか。
 確かに彼は、彼女のことを追いかけようとはしなかった。思い返せば「仕込み?」というのも、振られた直後にしては変な質問である。
「ついでに言うと彼女でもない。とうにお断りしたはずのお見合い相手」
「え!?」
 今度は私と奈央子が同時に驚嘆の声を上げ、奈央子はわざわざ両手でタイムのTの字まで作って叫んだ。
「貴博さん、ちょっと飲みに行きましょう!」
< 14 / 204 >

この作品をシェア

pagetop