スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
「そんなこと……」
 反射的に謙遜しかけたところで、確かに勇也さんも大学の先輩だし、奈央子も世間的にはお嬢様学校とされている女子大の出身だと思い至る。
「だから『できるの?』ってのは、キャパシティの問題。新作はどうするんだよ?」
 学歴の件はさらりと流して貴博さんが話を戻す。
 この男はたとえ婚約を破棄したとしてもパトロンの座を諦めるつもりはないらしい。そんなことを考える前に、私を奪いにきてはくれないのかと溜め息をつきたくなる。
 しかしこちらもそう簡単に素直にはなれないので、新作の話題に乗っかっていた。
「舞台脚本はリクエストがあったから、実はボチボチ書き始めてる。で、今回は演出は他の人に任せてみようかなと。脚本家と演出家が違うのも、そんなに珍しいことではないからね」
 そもそも既成脚本を使えば百パーセントそうなるのだ。極端な例を挙げるなら『ロミオとジュリエット』の演出を誰もシェイクスピアには頼めないということである。
「映像作品については、勇也さんと相談中」
 編集と配信の勉強がてら、舞台のアーカイブ配信を試みることを提案された時は戸惑ったが、案自体は悪くない。これまた少しずつ取り掛かり始めている。
 そうだ、貴博さんと疎遠になっていたのは単純に忙しいからでもあったのだ。
< 148 / 204 >

この作品をシェア

pagetop