スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
 というわけで、稽古終わりに三人で晩ご飯をいただくことになった。

 劇団カフェオレ御用達の近くの居酒屋へ行けばいいところ、奈央子はわざわざ足を延ばしてスペイン系のこじゃれた飲み屋を選んだ。黒のパーテーションできっちり区切られたテーブル席で、三人でパエリアを食べている状況がよく分からない。
 彼女が迷わず彼の隣に座ったので、私は彼女の向かいに腰を下ろしてこの会の行く末を見守っている。
「貴博さん、お見合いとかするんですか?」
「断ったって話したろ」
「その現場に深雪さんが居合わせたわけですか?」
 彼が答えずにいると、奈央子の視線がこちらに向かう。もちろん私もだんまりを決め込む。
「えー、教えてくださいよ。どうなったんですか?」
「どうなったっていいだろう」
「……まあ、確かに? 深雪さんがこの顔に一目惚れしたことだけは分かってますしね。ホントにイケメン」
 相変わらず遠慮なく距離を詰める奈央子を、貴博さんがものすごく面倒くさそうにあしらっている。よく一緒に食事する気になってくれたものだ。
「でも、深雪さんはキャストに欲しいだけですよね。恋愛対象とかではないでしょう?」
「え?」
 あからさまな牽制だった。奈央子は完全に貴博さんをロックオンしたらしい。
「……まあ、そうだね」
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