スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
 とはいえ相手は二十歳の男の子である。街中で貴晴くんを見かけたとしても、役者にスカウトはしなかっただろう。ヒロのイメージに合わない。
「安心して。大事な弟に手を出したりしないから」
「そういうことじゃないんだよ」
 貴博さんが呆れたように首を振り、歩き出す。私も何一つ言葉が浮かばずに、黙ったまま後に続く。
 彼も私もお互いのことが好きなのに、現状はできるだけそこには触れないようにしている。随分とややこしい関係になってしまったと心の中で嘆きながら、私は奈央子の言葉を思い出した。
 ――お母様と仲良くなれる絶好のチャンスじゃないですか。
 文乃さんに認めてもらえたら、卑屈ばかりの自分でも愛を叫べるだろうか。やっぱり結婚したい、愛し愛されたいと、彼に伝えることができるだろうか。
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