スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
*
三度目の篠目邸の訪問は、仕事なので背伸びしたお洒落をやめにした。
なんならスーツでも良かったが、貴晴くんが身構えてしまったら嫌なので、襟付きのシャツとジーンズのシンプルな装いで彼の部屋に足を踏み入れる。こちらも和室で、机を置いた一角にだけ黒っぽいラグが敷いてあった。ベッドがなく押し入れがあるから、きっと布団で寝起きしているのだろう。
そして机の前には貴晴くんが座るデスクチェアと、明らかに家庭教師のために用意されたスツールが並んでいた。品の良い和モダンは文乃さんのチョイスだろうか。
「やっぱり日本家屋っていいね」
「どこが?」
二十年間住み続けている貴晴くんには、この珍しさと懐かしさの共存が理解できないらしい。その疑問文からはまるで興味が感じられなかったので、特に解説はせずに早速本題に入る。
まずは生徒の学力を確認し、ちょっとした絶望を覚えた。
「この二年間、何してたの?」
「え?」
答えはない。
「ちなみに高校はどこ行ってたの?」
こちらの問いには有名私立の名前が飛び出した。そもそも小学校から大学までエスカレーター式の学校に通っていたのに、内部進学で引っ掛かったらしい。
「卒業させてやっただけましだと思え、って言われた」
「なるほど」
貴晴くんが自嘲気味に笑う。
「深雪先生も無理しなくていいよ? 俺、馬鹿だから」
「そんなこと――」
三度目の篠目邸の訪問は、仕事なので背伸びしたお洒落をやめにした。
なんならスーツでも良かったが、貴晴くんが身構えてしまったら嫌なので、襟付きのシャツとジーンズのシンプルな装いで彼の部屋に足を踏み入れる。こちらも和室で、机を置いた一角にだけ黒っぽいラグが敷いてあった。ベッドがなく押し入れがあるから、きっと布団で寝起きしているのだろう。
そして机の前には貴晴くんが座るデスクチェアと、明らかに家庭教師のために用意されたスツールが並んでいた。品の良い和モダンは文乃さんのチョイスだろうか。
「やっぱり日本家屋っていいね」
「どこが?」
二十年間住み続けている貴晴くんには、この珍しさと懐かしさの共存が理解できないらしい。その疑問文からはまるで興味が感じられなかったので、特に解説はせずに早速本題に入る。
まずは生徒の学力を確認し、ちょっとした絶望を覚えた。
「この二年間、何してたの?」
「え?」
答えはない。
「ちなみに高校はどこ行ってたの?」
こちらの問いには有名私立の名前が飛び出した。そもそも小学校から大学までエスカレーター式の学校に通っていたのに、内部進学で引っ掛かったらしい。
「卒業させてやっただけましだと思え、って言われた」
「なるほど」
貴晴くんが自嘲気味に笑う。
「深雪先生も無理しなくていいよ? 俺、馬鹿だから」
「そんなこと――」