スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
「それに先生、家庭教師を引き受けたのは兄ちゃんのためでしょう?」
 大人を信用していない目が、笑顔の下でキラリと光る。
 ……ああ、私は二十歳の男の子にそんなふうに思われているのか。
「違う。それだけは絶対に」
 流れで引き受けた家庭教師だが、一応私なりの理由というか、興味を引く点が貴晴くんにはあった。
 というのも、彼が言い放った「俺のことを馬鹿だと思っている先生に教わったところで成績が上がるとは思えない」という台詞が理に適っていると感じたのだ。たとえ感情任せに発せられた言葉であっても、前の家庭教師が本当にそういう先生だったのならば切って正解だし、きちんと自分の意見が言える生徒は見どころがある。
 実際、この子は馬鹿ではないと思う。
「どうしてこの前、すぐに『兄ちゃんの彼女』が来てるって分かったの? あの時、私は貴博さんにも家に行くとは話してなかったし、お母さんはわざわざ紹介する感じじゃなかったのに」
「ああ、ケーキの箱」
「え?」
 彼は得意げに微笑んだ。
「深雪先生、前に兄ちゃんとウチに来た時にも同じ店のケーキ持ってきたでしょ? あの日は俺だけ先生に会わせてもらえなかったから、ちょっとムカついてみんなが話してる間に全部食ってやった」
「全部?」
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