スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
「美味しかったけど全然知らないケーキ屋だったから、同じ人が持ってきたのかなって」
 ほら、貴晴くんの観察力と推理力もなかなかのものである。
「あのケーキ屋、私のお父さんの店なんだ」
「マジで?」
 彼が目を丸くする。
 貴晴くんはいい子だ。甘やかしてしまったと文乃さんは話していたが、真っ直ぐのびのび育ったという意味なら決して悪いことではない。
「私のことが信用できるかどうかは、これからの授業で確かめてくれればいいから」
「それって俺に、授業は必ず受けろって言ってるよね?」
「その通り。じゃあ、始めようか」
 途端にふてくされるのも年相応に可愛いと思える。いや、二十歳にしてはちょっと子供っぽいのかもしれないが……普段から自由過ぎる役者たちを相手にしている私からすれば、マイナスに感じるほどではなかった。
 さて――。
 家庭教師の授業は国語から始めることにした。
 というのも、貴晴くんはそもそも問題文を読むことを億劫に感じているように見えたからだ。
 例えば数学。計算問題はそれなりに解けるのに文章問題で入り口からつまづいてしまった彼は、問題文の説明そのものがきちんと呑み込めていない気がした。まずは問題文を正確に読めるようになってもらう。
「それって国語なの?」
「国語だよ。読解っていうのは、文字通り読んで理解することだから」
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