スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
「俺の演劇人生には深雪が必要だってこと、貴博くんが現れて俺も思い知らされたんだから仕方ないだろう」
 自分で自分の言葉にうんうん頷いている勇也さんもまた、生粋のエンターテイナーなのだろう。発想がぶっ飛んでいる。
「ついでにいえば、深雪のパトロンになりたい貴博くんとはむしろ仲良くなれると思うんだよな。同じ才能を買っているわけだから、俺が恋敵にはなり得ないってことさえ理解してもらえたら」
「だそうですよ」
 唐突に奈央子が、衝立の向こうを覗き込む。すると――。
 なんと隣の席から貴博さんが現れたのだ。
「何で……あ、だからわざわざ座敷で予約したの?」
「まあ、はい。貴博さんの独身最後の憂いごとは、勇也さんだったようなので」
 貴博さんが遠慮がちに――さすがにちょっと気まずいらしい――呆然と彼を見上げている勇也さんに話し掛けた。
「悪かったな。でも……俺からすればあんたは芝居のプロだからさ、どこまでいっても信用できないというか」
 その一言で、ポカンとしていた勇也さんにスイッチが入った。
「もちろん、もちろん。疑ってくれて構わないよ。ほら、世の中には釣った魚にエサはやらない男もいるだろう? でも、貴博くんが俺のことライバル視してくれているうちは、深雪に飽きることもないわけで」
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