スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
 彼がカップを傾けたので、つられて私も口をつけた。インスタントには出せないすっきりとした苦みが口内に広がっていく。
「やっぱり脚本家は面白い」
「ホントに変わった趣味してるよね」
 その趣味のおかげで、彼の方も新婚生活が楽しくて仕方がないらしい。私も仕事柄人間観察は時々するが、分かるような、分からないような……。
 しばらく黙ってコーヒーを味わっていると、貴博さんがおずおずと口を開いた。
「なあ。その脚本、俺に手伝えることとかないの?」
「出演してくれるならいい役用意するよ? 舞台より映画の方がその顔使いやすいし」
「そうじゃなくて」
 せっかく私の商業デビュー作への出演を打診しているというに、彼は渋い顔で溜め息をついた。
「まさか母親に先越されるとはな」
「いやいや、営業までしてくれるパトロンってよっぽど――あ、貴博さんは物好きだったっけ」
 思いつくまま言葉にすると、彼は口を尖らせた。
 実は今回の仕事は、文乃さんの知り合いから紹介されたものなのだ。
 当然ながら営業ではなく、話の流れで脚本家の嫁のことを口にしただけのようだけど。考えてみれば歌舞伎役者の娘をお見合い相手に引っ張ってきた人である。その人脈作りのスキルが学べるものならば、今後のためにぜひとも学ばせてもらいたい。
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